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道の記憶 11 years ago
谷中「へび道」で「青空洋品店」をされていた
あづさんのだんな様が新しく始められたお店です。日光にあります。

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cocoloya





ふたり東京に越してきて、最初の町は板橋でした。

今よりもずっと小さなアパート暮らし。
東上線の鳴り止まぬ踏み切りと
近所の人々との馴れないコミュニケーションと
夜通し聞こえる、川越街道からの車音に
少し小さくなって、うつむき加減で
それでも「ここは夢の街だからね」と暮らした記憶があります。

商店街は賑やかだし、お店もたくさんあるし
映画館だって少し歩けばあるし、ビデオレンタルもすぐ。
板橋は便利で、暮らし向きの町。
でも、田舎から出てきた二人には空気も目にしみる町でした。
空が霞む日は、目薬をいつも射していました。


東京での生活に慣れはじめて、同時にぐっと疲れ始めた頃、
「ミシンを踏んでる女性が、小さな洋品店をされている」
そんな話を知り、はじめて谷中を訪れました。

初めての谷中はみんなそうなのですが、
僕らも例にもれず、ぐるぐると迷子になって
暗くなりかけた生活道路に「青空洋品店」を見つけました。

小さくて温かい店内で
店主のあづさんは、眠るように話してくださいました。
僕らも一生懸命、貯めてきた言葉を取り出しはじめました。

広島の匂いがする語尾がぶつかる
懐かしい、懐かしいコミュニケーションでした。


「また来ます」「またおいで」
そんな言葉で、話はおしまい。
用事を見つけては、僕らは谷中を訪れ
いつも通り迷子を楽しんで、あづさんと話をして、板橋に帰る。
地味だけど穏やかな休日を大切にしていました。



根津駅で降りて、力が程よく抜けた根津ぎんざを抜けて
実用根津ホームを左に曲って、ほらこの道。

線香のいい匂いと
キックボードのすべる音と
給湯器のパチパチ音、それから赤ちゃんの泣き声。
慎ましくも賑やかなプランターの連続は下町っ子の粋を伝えています。

そのすっと先の右側
牛乳屋さんとおすし屋さんの並びに
あづさんのお店はありました。
店前にはいつも、季節を教える草花がありました。



数年後、僕らは憧れの谷中に越してきて
ご縁があり、この道でベーグル屋を始めています。


もう、「青空洋品店」はなくなってしまったのだけれど
僕にとって、この道の記憶は今でも
道々の景色と、暮らしの音と、あの時の会話。


谷中と、不安定だった僕らをつないでくれたこの道に
そこで商売させていただいている、ありえない幸福を重ねて暮らしています。




あづさーん、界隈の桜は満開ですよ。
そちらにももうすぐ、春の便りが行きます。